SNSやメールなどのライティングコミュニケーションは、英語、とりわけリスニングが苦手な日本人にとって「福音」と言えるでしょう。そんな時代にあっても依然としてニーズが高いのが「電話応対の英語」です。電話は、ライティングコミュニケーションのような、「英文作成までの時間的猶予」もなければ、Zoom会議のような「リスニング力不足を補う視覚資料の共有」もありません。まさに「音声だけで完結」という世界。英語学習者にとってはもっともハードルが高い領域と言えるでしょう。コミュニケーションのハードルが上がれば上がるほど、「簡潔・簡単・わかりやすい」というビジネス英語がきっと武器になってくれることでしょう。
目次
1.簡単・簡潔・わかりやすい英語と電話の親和性
前回は「簡単・簡潔・わかりやすい」英語について見てきました。実はこうした英語と電話の親和性はかなり高いです。電話の場合、ビジュアル情報がなく、音声だけでのやりとりとなるため、もったいぶった言い方よりも、シンプルな言い方が好まれるからです。
ただ音声だけでのコミュニケーションは、日本人にとって一番ハードルが高いコミュニケーション形態だとも言えます。この苦手意識を払しょくするためには、電話という一発勝負にすべての賭けるのではなく、事前準備やフォローという発想が肝要です。つまり、「電話はあまたあるコミュニケーション手段のひとつに過ぎない。成功するコミュニケーションのためには、手段を複合的に使っていこう」という姿勢が何よりも大切です。
ところで巷にあふれる電話英語フレーズは、昨今であればChat GPTやGoogle 翻訳を駆使すればいくらでも生成できます。本ブログでは、英語フレーズそのもの以上に、「どういうスタンスで電話に臨めばよいか?」「不完全な英語力でありながらも濃厚な議論を引き出す方法」などにも言及していきます。
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2.電話回避したい日本人・電話優先の英語ネイティブ
昨今は国籍問わず、テキスト中心のコミュニケーションスタイルがだいぶ広まってきました。その一端を垣間見られる著書がこちらです。
【ブックレビュー~世界のひきこもり by ぼそっと池井多】
同書には、SNSなどを中心としたテキストコミュニケーション全盛の現代社会がよく映し出されています。一方、このような顏も声も見えないテキストコミュニケーションが広まれば広まるほど、ビジネスコミュニケーションにおける顏や声の重要性が一層浮上するようにも思われます。
実は私自身も、電子メールやインターネットの登場で、テキストコミュニケーションの恩恵に浴した人間の1人です。外資系時代、とにもかくにもリスニング力不足で重要なこと、ニュアンスが細かい話は電話では消化しきれず、もっぱら電子メールでのやりとりに終始していました。
しかし、米国本社のコミュニケーションスタンスは私たち日本人のそれとは少し違っていました。彼ら曰く、顏の表情や声色もわからない電子メールは一種、「曇りガラス越しのお見合い」みたいな消化不良感が残ってしまうらしいのです。そんな彼らはメールと並行して積極的に顏や声がわかるコミュニケーションを行っていました。もちろん日本人側もそれに合わせて、苦手な電話会議やテレビ会議にも参加を余儀なくされていました。
ちなみに、苦手な電話英語コミュニケーションをやり過ごすために重要なポイントがひとつあります。それは、電話の二つの機能であるラポール形成と情報共有のバランスです。ラポールとは人間同士が関わり合う際の安心感や親しみやすさです。電話は「私はこんな声をしています」「今の私の気持ちはこんな感じです」と言った人間の感情面の共有を促します。一方、電話には情報共有というメインの機能があります。問題は、日本人側の英語力不足によって、後者の機能が十分に果たせないことがあることです。その場合はメールやSNSなどのテキストコミュニケーションを併用します。
英語力が十分と言えず、かつ、感情表現を比較的苦手とする日本人の場合、この二つの機能のバランスが非常に重要となります。和やかな声色で電話を終えたものの、共有情報に齟齬があっては仕事としての用をなし得ません。一方だからと言って、テキストコミュニケーションだけでは、人としての感情の交流が不十分で、特に英語ネイティブスピーカー側に不満を残してしまう恐れがあります。彼ら曰く、「本当のところどう思っているのかは、電話の方が伝わりやすいしわかりやすい」らしいのです。この部分は日本人側が見落としがちなポイントです。
3.情報優位ならテキスト・ラポール優位なら電話
ビジネスにおけるミスコミュニケーションの多くは、先述の目的のアンバランスとに起因することが多いです。例えば、相手側から納期の督促があったとします。ひとまず電話口で、納期に対応する旨を親しみのある声色で伝えれば、感情的な安心を互いに共有することはできます。この感情的な安心感や親しみやすさはラポールと呼ばれています。一方、具体的な日時になった場合、ここは電話とは別にメールなどのテキストで正確な情報を共有しておけば万全です。
私自身振り返りますと、コロナ禍の頃、終始テキストコミュニケーションで終わった案件と、電話コミュニケーションも織り込んだ案件とでは、全くそのあとの余韻が違いました。純粋な情報交換であればテキストで十分なのですが、なかなかうまく言語化できない熱意や思いは電話の方が伝わりやすいように思います。
とりわけ、英語コミュニケーションにおいては、英語を苦手とする日本人側の都合だけでなく、外国人や英語ネイティブスピーカー側の心情や事情にも想像を膨らませることが大切です。ともすると日本人側は英語コンプレクスで頭がいっぱいになりがちですが、ひとまず声を相手に聞かせるだけでも相手に非言語的安心感を届けることは可能です。その上で、テキストコミュニケーションで細かく詰めていけばよいでしょう。あるいは、電話では英語力の制限から、なかなか思いをうまく伝えられなかった場合には、後日テキストでカバーすればよいでしょう。
★知っておくと便利なフレーズ1;ぎこちない電話をフォローするメール文
I’m afraid that due to my limited English skills, I was unable to fully convey my passion for this project during our previous conversation. However, I would like to assure you that I am deeply passionate about this project and I will continue to express my commitment through our future interactions. Please understand that our communication will be mainly text-based for the time being. (先日の電話会議では、私自身の英語力不足から、私の本プロジェクトへの思いを十分にお伝えできませんでした。しかしながら、今後の取り組みを通して、私の思いを伝えてまいります。しばらくテキスト中心のやりとりとなりますことをご了承ください。)
【運用ポイント】電話会話のあと、あまり時間を置かずにメールを送りましょう。なお、メールという前提で、長文かつ説明的な英文にしてあります。これにより、電話では短い表現しかできなくても、テキストベースではいくらでも込み入った話ができるパートナーであることを相手側に印象付けておきましょう。
4.電話に進む前にやっておくべきこと
さて、ここからは具体的な電話コミュニケーションの手順に入っていきます。電話コミュニケーションを4象限に分け、それぞれの流域のキーワードをまとめました。
まずは、これから電話に臨む際、どのシチュエーションなのかを明確にしておきます。それぞれのシチュエーションで手順も違えば、英文フレーズも違うからです。
自分のシチュエーションがはっきりしたら、それに合った準備を行います。電話コミュニケーションの盲点は、実際に電話でコミュニケーションをしている最中だけでなく、その前の準備やそのあとのフォローです。
状況に合わせて臨機応変に対応していく秘訣は、ひとつのメッセージに対して英語表現もひとつに絞り込んでおくことです。もちろん上級者であれば、同じメッセージであっても時と場合によってさまざまな違う表現ができるでしょうし、その方がコミュニケーションの幅は広がります。しかし、元々電話でのやり取りを苦手としている方であれば、表現はあまり欲張らない方がよいでしょう。それよりも、どんな情報を下準備すべきか、電話の後のフォロー、あるいは話の運び方、といった内容面に意識を向けた方がよいでしょう。
5.ステージA:簡易な内容で電話をかける
簡易な内容で電話をかける場合、事前にシナリオを作成し、その通りに進めていけばよいでしょう。ただ、実際のところ、こちらが用意したシナリオ通りにいかないこともありますので、多少の想定外に余裕をもって対応できるよう、基本フレーズは何度も声に出して暗唱しておくことをお勧めします。
★知っておくと便利なフレーズ2;電話を掛ける際のシナリオ(話したい本人につながる場合)
相手:Thank you for calling ABC Company. May I help you? (ABC社です。ご用件を承ります。)
あなた;Good afternoon. My name is Hiroaki Yamada from XYZ Company. I’m calling to speak with Mr. Brown. Is he available? (こんにちは。XYZ社の山田博です。ブラウンさんとお話するために電話をしております。ブラウンさんはいらっしゃいますか?)
相手:Sure. I’ll connect you with Mr. Brown right now.(かしこまりました。ただいまブラウンにつなげます)
→本人につながったら、本人と話し始めます。
★知っておくと便利なフレーズ3;電話を掛ける際のシナリオ(話したい本人が不在の場合)
相手:Thank you for calling ABC Company. May I help you?
あなた:Good afternoon. My name is Hiroaki Yamada from XYZ Company. I’m calling to speak with Mr. Brown. Is he available?
相手:I’m sorry, but Mr. Brown is not available at the moment. (あいにくですが、ブラウンはただいま席を外しております)
あなた(もう一度かけ直す場合):OK. I’ll try calling again later. When will be a good time to reach him?(わかりました。電話をかけ直します。都合のよい時間はございますか?)
あなた(折り返しの電話を希望する場合) :Could you please ask him to call me back? My number is 03-1234-5678. (ブラウンさんに折り返しお電話をしていただけますでしょうか?私の電話番号は03―1234―5678です。)
→フレーズ1と2のように、電話をかける際、話したい本人につながる場合と、本人不在の場合を想定しておきましょう。
★知っておくと便利なフレーズ4;話したい本人とつながり、かつ緊急の場合
Hi, Mark! I know you are very busy. But I have an urgent matter and couldn’t wait for email. Would you have a moment to seapk with you now? It should only take a few minutes.(マーク、こんにちは!あなたがとても忙しいのはわかってるのですが、緊急事態で、メールは待てませんでした。今少しだけ話す時間ありますか?)
端的に要件を伝えた後で↓
I will follow up with more details via email after this call. If possible, I would appreciate your reply by tomorrow. Otherwise, please let me know when you would be avaiable to respond. (この電話のあと、詳細をメールで送ります。可能なら明日までに返答をもらえたらありがたいです。そうでなければ返答可能な日時を教えてください。)
なにより緊急性はやはり電話が一番ストレートに相手に届きます。海外との時差を考えると、たとえ短い時間でも要件は電話で端的に伝えておきましょう。その上でメールなどのテキストメッセージを送れば万全です。
6.ステージB:簡易な内容で電話を受ける
とっさに電話を受ける場合、あらかじめこちら側でシナリオは用意できません。したがって、必要最小限の応対パターンを知っておくにとどめておきます。ポイントは、自分だけで電話会話を完結させようとせず、しかるべき人にバトンタッチすることと、しかるべきフォロー(次回ステップ)を打ち出しておくことです。特に新たなビジネスチャンスに関わる電話であれば、これを逃さないためにも、この2点は重要です。
★知っておくと便利なフレーズ5:電話を受ける際の基本フレーズ
あなた:Thank you for calling ABC Company. May I help you?
相手:Good afternoon. I read an article about your new product online. Is there anyone who can tell me more about it?(こんにちは。御社の記事をネットで読みました。それについて詳細を教えてくださる方はいらっしゃいますか?)
あなた:I’m afraid the person in charge is not available at the moment. I’ll have him contact you as soon as possible. Could you please give me your name, phone number, and the best time to reach you?(あいにく担当者は席を外しております。なるべく早く担当者から連絡をさせます。つきましてはお名前、お電話番号、ご都合のよろしい時間帯を教えていただけますか?)
相手:Sure, My name is 【Tom Brown】. My phone nubmr is 【03-1234-5678】. You can call me between 【13:00】and ( 17:00】(もちろんです。私の名前はトムブラウンです。電話番号は03―1234―5678。13:00から17:00に電話をいただけると助かります。)
あなた:Let me repeat that back to you to confirm your information. Your name is 【Tom Brown】. Your pohne nubmer is 【03-1234-5678】. The best time to reach you is between 【13:00】and 【17:00】. It that correct? (確認のために復唱させてください。お名前はトム・ブラウン様。お電話番号は03―1234―5678。お電話差し上げる時間帯は13:00から17:00の間ですね。)
相手:Yes, that’s correct.(はい、その通りです。)
あなた:Thank you for your information. Please wait for a call from the person in charge shortly.(情報ありがとうございました。それでは今しばらく担当者からの電話をお待ちくださいませ。)
→ この場合、あなた一人で完結しようとせず、担当者につなごうとしています。今回は担当者に電話をつなげなかったため、次のステップとして、電話の相手の情報を承り、担当者に伝えることにしました。
7.ステージC:高度な内容で電話をかける
高度な内容の場合、電話で話し合う前にあらかじめアジェンダ(議題)を設定しておく必要があります。これにより、お互い議論の準備ができるため、当日より深い議論が可能となります。また、アジェンダの内容によっては、しばらくメールでのやりとりが続く場合もあります。これは英語での会話が苦手な日本人にとってはとてもありがたい状況だと言えます。
アジェンダを提示することで、メールやテキストベースでの議論が発生するということは、場合によっては電話は不要となることもあるでしょう。ただ、ここで「創造的発展」を期待するのであれば、一度は電話でやり取りすることをお勧めします。テキストベースコミュニケーションのメリットはお互いに言いたいことを十分に練ってから相手に発信できることです。しかしこの場合、カジュアルな雑談の中から突然生まれるアイディアがあまり期待できません。アイディアには、整理された環境、綿密な準備によって出やすくなるものと、何の構えもなく、フランクに話している時にふと降りてくるようなものがあります。電話や実際に顏や声を突き合わせて話すメリットは、この「思ってもいない角度からのアイディア」にあります。
実際にアジェンダを用意して電話に臨む時にはこんなフレーズがあります。
★知っておくと便利なフレーズ6:アジェンダに基づいた電話トーク
あなた:I’m not used to discussing in English, so I sent you the agenda in advance. Today, I would like to share our thoughts based on this agenda. Is that okay with you?(私自身、英語での議論に慣れていないので、事前にアジェンダを送らせていただきました。今日はこのアジェンダに沿って、お互い思うことを共有したいと思います。そういう進め方でいいですか?)
相手:Yes, that’s fine.(はい、問題ないです)
あなた:Another thing, since this is almost a brainstorming session, I would like to record all the ideas that come up and review them later. Is that okay?(もう一点、今回ほぼブレストに近いので、ひとまず出てきたアイディアは全て録音して、後日じっくり検討したいのですが大丈夫ですか?)
相手:Yes, if you can keep it between you and me, I’m fine with recording it, as I don’t want anyone else to know about it yet.(はい。まだあまり人に知られたくないので、私とあなたとの間に留めておいていただけるのなら、録音しても大丈夫です)
あなた:Understood. Let’s start with Agenda 1. Let me hear Tom’s opinion on this.(了解です。では、アジェンダ1から始めます。これについてのトムの意見を聞かせてください)
→以下、アジェンダ1,2,3,と順番に議論を進めていきます。
あなた:It was a short but very productive brainstorming session. Let’s call it a day for today. I will review the content of today’s discussion and create an agenda for the next meeting, so please wait a while.(短い時間ながらもかなり有益なブレストができました。今日はこれまでとしましょう。今日の内容を見直して、次回のアジェンダを作りますので、今しばらくお待ちください)
相手:OK. Thank you for today.(了解です。今日はこちらこそありがとう)
8.ステージD:高度な内容で電話を受ける
一般的なビジネス場面において、高度な内容の電話を英語で突然受けることはあまりないかもしれません。しかし、万が一、そのようなことが発生したときには、慌てずに対応しましょう。こういう時は、少し冷却時間を置くことをお勧めします。英語力に自信のない日本人にとって極めて重要なのは、その場で反応的に対応せず、ベターな次策を提案することです。以下、拙速な電話議論を回避するためのフレーズを紹介します。高度な内容の場合、お互いにある程度の準備が必要です。ここは落ち着いてリスケ(スケジュール再設定)や、関連資料の共有など適宜フォローするようにしましょう。また、日本人側にとって英語の理解上かなりハードルが高そうであれば、議論した内容の記録を後日送ってもらうように依頼しましょう。
★知っておくと便利なフレーズ7:準備不足の状態ですぐに応じない。
❶The person most knowledgeable about this topic is currently unavailable. I can have them contact you, so please wait a moment.(その議題について一番詳しい者が今不在です。彼らからあなたに連絡を指せますので今しばらくお待ちください)
❷I will send you the relevant materials for this topic later. Could we discuss it again after you have reviewed them?(その議題について関連した資料をあとで送ります。そちらに目を通してから、改めて議論しませんか?)
❸Could you please provide me with some information about this topic? I will review it and then respond to the discussion.(その議題について少し情報をいただけませんでしょうか?それらに目を通してからあらためて議論に応じます)
❹We don’t have enough time to discuss this topic thoroughly today. Could we reschedule for next week or later? Please let me know three possible dates and times. I will prepare for the meeting in advance.(今日はゆっくり議論する時間がありません。来週以降でリスケしませんか?希望の日時を3日程くださいませんか?それまでにこちらも準備しておきますので)
9.まとめ
いかがでしたでしょうか?必要最小限の電話応対であれば、あらかじめ定型フレーズを用意してそれを暗唱するか、それを見ながら話せばよいでしょう。ただし、会話の内容に集中するためにも、基本フレーズは暗唱してしまった方がいいです。一方、込み入った話になりそうな時は、「自分一人で完結させない」と「その時間内で完結させない」を肝に銘じて、しかるべき人を巻き込んだり、リスケをしたり、しかるべき資料をそろえるようにしましょう。
なお上記英文は、あくまでも参考例であり、これよりももっと簡易なものや、咄嗟に出てくる短文の掛け合わせでも全く構いません。大切なのは英語の表現そのものより、電話コミュニケーションをどのようにとらえ、進めていくか、という設計です。自動翻訳でいくらでも英文は創出できる時代です。だからこそどのように会話を設計するかという前工程が非常に重要なのです。
ところで会話設計という前工程の重要さは、プレゼンやネゴシエーションでも全く同じです。こちらの通信講座も同じようなコンセプトで作られています。2か月で学べるので、多忙なビジネスパーソンにお勧めです。また、プレゼンやネゴについて全くイメージがつかめていない新入社員への「ビジネス英語指南教材」としてお勧めです。
【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】
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